仕事仲間の友人との会話です。
話題は、かつて存在し、破産したあるベンチャー企業のことになりました。
友人と僕は、当時それぞれ別の立場で、そのベンチャー企業にかかわり、破産申立てに至った経緯もお互いによく知っていました。
「なんかザルみたいな会社だったな、いくら資金調達しても、すぐに使ってなくなっちゃう。」
うん、銀行やベンチャーキャピタルから何十億円も調達してたけど、毎月どんどんおカネが溶けちゃっていた。
「あれって、一体なんだったんだ。」
う~ん、なにか特別なことにコストをかけてる、っていうわけじゃないんだよな。。
研究開発とか投資に、めっちゃおカネをかけてるわけでもない。
ひとことで言えば、『なんだかよくわからないうちに、おカネが出ていってる』感じだったな。
「家計レベルじゃないか。年商が数十億円の会社でも、そんな状態ってありうるんだな。」
うん、経営陣のおカネのセンスが緩いと、会社でもそうなるよ。
販売管理費すべての勘定科目が、いずれも世間一般の経営水準よりも、高コストだったな。
一件一件は、数十万円から百万円単位で、大したことないんだけど、チリも積もれば山となるで、毎月で締めると数千万円の営業赤字になってたな。
でも別に、研究開発とか投資とか、将来につながるものに使ってるわけじゃない。
ただのキャッシュアウトフロー、死にガネだよ。
「なんに使ってたんだ?」
たとえば、単純に飲み食いだよ。
「どういうこと?」
総勘定元帳データと証憑をみたら、取引先の接待とか社内会議と称して、高級クラブとかキャバクラで夜ごと騒いでたんだよ。計上は「交際費」「会議費」あと「雑費」だ。
一件一件は二十万円程度でも、十回飲みにいけば二百万円だしね。
社長はじめ上層部がみんなその調子じゃ、すぐ毎月一千万円くらいのコストに化ける。
「なんじゃそりゃ…。他にはどんな事に使ってたんだ?」
破たんする会社にありがちなんだけど、社長さんがコンサルを使うのが大好きで、ブランド系とか組織系とかのコンサルを数社使ってたな。実務にはなんの役にも立たないのに「業務委託費」がけっこうな金額になっていた。
「なるほどな。でもそれだけじゃ、毎月の赤字に足りないぜ。」
会社ってのは、みんな、上の人間の言動をみて仕事してる。上層部がその調子だから、現場の社員もコスト意識が身につかない。彼らなりに業者から裏でマージンをもらったり、会社の経費で飲食したり、あるいは上層部に引き立ててもらって、自分も好きに経費を使おうとする奴がでてくる。社内政治のはじまりだ。
そんな調子で、けっきょく全社的に、高コスト体質になってたな。
「あの会社、テレビCMもばんばんやって、社長も有名人だったのにな。内部がそんな有様だったなんて、だれも思ってなかっただろうな。破産申立ての情報が流れたときは、金融筋はけっこう騒然としてたぞ。」
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「ふむ。あの会社は結局、倒産してしまったけど、そういう会社って、今でもよく見聞きするよな。そういう状況って、ぐりっと
できるよ。
程度の差こそあれ、スタートは似たような状況で、何回か
「そんなスタートラインで、どうやって黒字にもっていくんだ?」
うん、そもそも経営は、『おカネを増やす仕組み』をつくることにある。
ヒト・モノ・ノウハウ・カネを組みあわせて、手元におカネが残る仕組みをつくる。そうしないと、倒産しちゃうからね。
でも、ザルみたいな会社の場合、『おカネを増やす』仕組み自体が育っていない。だから、いくら事業計画を作っても、その通りに実現できない。
破産したあのベンチャー企業みたいに、華々しく注目された会社であっても、この『仕組み』がないと、業績が伸び悩み、だんだん金融機関から信用を失っていく。
信用を失えば、
だから、残された時間と資源を使って、少しでも『おカネを増やす』仕組みをつくって、収益の最大化に努め、金融機関からの信用を積み重ねるしかない。
これは、事業再生にかぎらず、経営の本質だと思うよ。
「まあ、そりゃ正論だな。でもどこの会社の経営も、その考え方でいいのか?」
どんなケースでも、この原理原則はおんなじだけど、ただ、事業成長のために投資はどれだけ可能なのか、手元資金と調達できる資金がどれくらいあるのか、という二点によって、守り型で再生するのか、攻め型で再生するのか、ケースごとに、バランス加減をみながら判断する必要がある。
要は、『限られたおカネを、どれだけ有効に使えるか、活きガネにできるか』というセンスが大事なんだと思う。
ザルみたいな会社は、おカネが無限にあるとか、いくらでも調達できるとか、ちょっと傲慢さがある会社なんだよ。
けっきょく、会社がダメになる原因は、おカネを死にガネにしてしまうセンスそのものにあって。
これに対して、
そういうことなんじゃないかな、と思うよ。
(友人との会話は、まだまだつづきます。)
HOPEキャピタル 河﨑晋太郎
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